文鉄・お札とコインの資料館

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紙幣の偽造防止技術





●現行日本銀行券に採用された偽造防止技術





●すかし


古くから用いられる手法で、紙幣を印刷する用紙を作る段階であらかじめ一部分を薄くしたり厚くしたりしてすかしを漉き入れる。過去の銀行券や低額面では白すかしを使うことがある。現在の日本銀行券をはじめとした世界の銀行券の主流は白黒すかしであり、薄い部分と厚い部分を組み合わせることによって繊細なすかしを完成させている。なお、日本では一部分を厚くする黒すかしは法律によって規制されている。


日本のD2000円券の透かし。白黒透かしによって豊かな表現の守礼門が浮き上がる



韓国のダ1000ウォン券。白すかしによって「1000」の文字が、白黒すかしによって豊かな表現の退渓李滉が浮き上がる


●ホログラム


すかしにかわる新たな偽造防止対策として用いられているのがホログラムである。見る角度により金属箔に浮かび上がる画が変わる。日本では日本銀行E5000円券E10000円券より用いられている。

韓国のバ10000ウォン券のホログラム。見る角度によって模様が額面、四卦(大韓民国の国旗のまわりにある模様)、韓半島にかわる。


●マイクロ文字


紙幣にごくごく小さな肉眼でかろうじて見えるか見えない程度の大きさの文字を線のように配置する。単純なコピーでは単なる線となることがある。

オーストラリアの5ドル券のマイクロ文字。ごくごく小さな文字で額面が書かれている。



日本のD2000円券のマイクロ文字。線に見えるが、実は細かく「NIPPON GINKO」と印刷されている。


●ポリマー紙幣


紙幣そのものをプラスチックで作ったもの。すでに紙幣と呼べるものか謎ではあるが、一部分を印刷せず、透明のままにし、窓と呼ばれる状態にすることにより紙幣の向こう側を見えるようにするという紙幣では到底無理なこともすることができるため、偽造対策としては大きな効果がある。オーストラリアがまず実用化しパプアニューギニアベトナムなどさまざまな国や地域で使用され始めている。

オーストラリアの10ドル券の透明窓。後ろに置いた日本のD2000円券が見えている。


●安全線


紙幣にプラスチックや金属線を漉き入れ、透かしたときにその漉き入れた線が浮かび上がるというもの。最近では額面を入れたり国名を入れたりしたもの、一部分を外にだして見えるようにしているものなどがある。

韓国のマ5000ウォン券の安全線。額面が浮かび上がる。


●着色繊維


紙幣を印刷する用紙を作る段階で埃のような着色された糸などを入れること。

カナダの「カナダの旅」シリーズ5ドル券の着色繊維。安全線も見える。


●エンボス


紙に大きな圧力をかけ凹凸をつけるもの。一部の紙幣ではそれを視覚障害者用点字としても使用している。

カナダの「フロンティア」シリーズ5ドル券のエンボス。点字として使用されている。


●着色紙


白い紙ではなく、あらかじめ色をつけた紙を用いること。日本をはじめアメリカなどほとんどの国や地域で使用されている。偽造時のカラー調整などを難しくする。

ギリシャの100ドラクマ券。紙幣自体が淡いオレンジ色をしている。


●彩文


紙幣額面表示の背景に使われることが多い。複数の色を使い複雑な模様を仕立てる。10色程度が使われることがあり、これらはインクを混ぜ合わせるのではなく、独立インクで印刷される。

日本のC1000円券。複雑な彩文が機械彫刻によって描かれている。


●凹版印刷


紙幣に印刷する際に過大な圧力とインクをつけて、一部分を盛り上げたようにする印刷手法。指で触るとザラザラしているのがわかる。近年ではさらに圧力とインクを増やした深凹版印刷が主流。

日本のD2000円券の深凹版印刷。「日本銀行券」「弐千円」「日本銀行」という文字が盛り上がっている。


●パールインク


紙幣を傾けると、薄いピンク色に変化する。日本ではD2000円券より採用された。


日本のD2000円券のパールインク。紙幣両端にピンクの帯が出現する。


●合わせ模様


裏表同時に印刷ができる特殊な印刷機を使い、紙幣をかざした時に裏表で異なる意匠が重なって一つの意匠にするというもの。日本では用いられていない。

韓国のマ5000ウォン券の表面の合わせ模様。


韓国のマ5000ウォン券の裏面の合わせ模様。


韓国のマ5000ウォン券をかざして一つの模様となった状態(合成)。


●潜像模様


深凹版印刷の技術を使用し、見る角度によって文字が浮き出るようにしたもの。日本ではD2000円券より採用された。

中華民国の100ニュー台湾ドル券の潜像模様。額面の100という数字が現れる。



日本のD2000円券の潜像模様。角度によって2000という文字が見える。


●光学式変化インク


OVIと呼ばれることもある。紙幣の角度を変えると、文字の色が緑から紫へと変化する。日本ではD2000円券のみ採用されている。

韓国のカ50000ウォン券の光学式変化インク。額面の文字色が角度によって緑から紫へ変わる。



日本のD2000円券の光学式変化インク。表面右上の2000という数字の色が変化する。


●ユーリオン


特定のパターンの黄色やオレンジ色の丸を紙幣に印刷しておくことにより、対応している画像編集ソフトやコピー機が紙幣であると認識して編集や複製を阻止する。

アメリカの5ドル券のユーリオン。05という数字の0がユーリオンの丸にあたる。ユーリオンについてはこちらのコラムも参照ください。


●特殊発光インキ


ブラックライト(紫外線)を当てると発光するインクを用いる。日本では1993年12月に発光された2000円以外の記番号が茶褐色のD号券(当時は2000円券は未発行。2000円券は発行時より採用。)より使用され、印章(総裁之印)や一部の地紋が光る。


日本のD2000円券の特殊発光インキ。印章の他彩文の一部、パールインキ部分が発光する。


●微小ブレート


プランチェットとも呼ばれ、紙幣のアトランダムな位置にプラスチックなどの小さな水玉模様のような物を配置すること。通常何もしなければ紙幣に付いているが、真偽判定などが必要になった場合、直接印刷されているものではないので、爪などでそのプレートのみを削り取ることができれば真券と判断ができる。日本では用いられていない。

カナダの「カナダの鳥」シリーズ2ドル券の微小プレート。記番号の"1"と"2"の間などにある黄緑色の丸が微小プレート。


●虹色ストライプ


深凹版印刷の技術を使用して見る角度によって虹色のように見えるもの。日本では用いられていない。

インドネシアの10000ルピア券(2010年発行)の虹色ストライプ。


●シークレットマーク


複製時に潰れてしまうような小さい記号や、特定の法則にそって特定の図柄などを変更している。日本銀行券ではB号券に顕著だったが、その後印刷技術の向上により、しばらく姿を消しE号券から「ニ」「ホ」「ン」という文字が入れれた。貨幣では通常の500円貨幣にごく小さな文字で「N」「I」「P」「P」「O」「N」と彫られている。



B100円券のシークレットマーク。記号によってひまわりのような模様の中に一つだけA字型の模様がある。




E1000円券のシークレットマーク。裏面の桜花の中に「ニ」「ホ」「ン」の文字がある。




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